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『広辞苑』の誤解 [それ、ウソです]

 それ、ウソです(70)

 『広辞苑』の誤解

 【帝王切開術】(Kaiserschnittドイツ)(ラテン語からドイツ語に訳された時、切りきざむの意のシーザーが帝王のシーザーに取り違えられた名称であるが、シーザーがこの手術により生まれたという俗説もある)=『広辞苑』第一版(1955年発行)。

 妊婦の腹部を切開して胎児を取り出す手術を意味するラテン語の「切る」を「帝王」と誤訳した。

 そのドイツ語が日本の医学用語のもとになった。

 ─という「帝王切開」の誤訳を指摘する説は、わりあい早くから広く知られているが、本当はそうではない。

 「取り違え」たのは、ドイツではなくて日本であることが、いまではわかっている。

 その話の前に、まず『広辞苑』の第二版以後の記載をたどってみよう。

 【帝王切開術】(Kaiserschnittドイツ)(ラテン語sectio caesareaをドイツ語に訳した時、「切る」の意のcaesareaを帝王の意にとったための誤訳。カエサル〈Caesar〉がこの手術により生まれたからというのは俗説)=第二版(69年発行)。

 【帝王切開】(中世の俗説に惑わされて、ラテン語sectio caesareaのcaesareaを「切る」の意でなく、カエサル(帝王)の意と誤解し、それをKaiserschnittドイツと直訳したもの)=第三版(83年発行)。

 第三版以後は「帝王切開術」から「術」の字がとれて、第四版(91年発行)は、第三版と全く同じ記述の末尾に「という」の三文字がくっついている。

「中世の俗説」が、第一版・第二版の言うカエサル(シーザーは英語読み)の出生にまつわる俗説を指すのは言うまでもない。

 ラテン語sectio caesarea(セクチオ カエサリア=ラテン語の発音はローマ字読みでよいそうだ)のsectioもcaesareaも「切る。切り分ける」という意味なので、sectio caesareaは「切って分ける」。
 意訳すれば「切開分娩」だろう。

 古代ローマでは、妊娠末期の母親が死に瀕したとき、胎児を助けるためにこの手術(死後帝王切開)が行われた。

 また、死亡した妊婦を埋葬するさい、腹部を切開して胎児を取り出した。

 法律でそう定められていたというが、カエサルはそのどちらでもなかった。

 そのことは母アウレリアに宛てた、中年期のカエサルの手紙の記録が残っていることでも明らかだ。

 話を戻そう。

 ラテン語sectio caesareaがドイツ語に訳されてKaiserschnittとなったのは、caesareaをCaesarと取り違えたための誤訳である。

 日本の現代医学はドイツ医学の移入から始まったから、Kaiserschnittを直訳して「帝王切開」という用語ができた。

 ─というのが、『広辞苑』などが指摘してきた通説だが、それはウソである。

 カエサル(Caesar)が「皇帝」を意味するようになったのは後世のことで、もともとはcaesareaから派生した「分家」という意味だった。

 なので、カエサルのフルネーム=ガイウス・ユリウス・カエサルは、「ユリウス家(ローマの名門氏族)の分家のガイウス」ということになる。

 つまり、caesarea →Caesar→Kaiserで、Kaiserschnittは、ラテン語のsectio caesareaをそのままドイツ語に移しかえただけなのである。誤訳などはしていない。

 「中世の俗説に惑わされ」たのは、ドイツではなくて日本だったのだ。

 なお、『広辞苑』第五版(98年発行)からは如上の誤訳説が削除されて、単に、

【帝王切開】母体の腹壁および子宮壁を切開して胎児をとり出す手術。胎児の産道通過が困難で、自然分娩が期待できない時に行う。─とだけある。
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